油彩手順6
油彩手順の連載ではオーソドックスな描き方を整理しながらお話してきましたが今回は少しトリッキーなものをお見せします。
前回記事も下塗りについて触れました抽象的な下塗りをしてから彩色していきます。サンプルはヌードを描きますが特に「足がこの辺に来て~」など形を取ろうとする姿勢は一切ありません。ただ感じたまま色とタッチを塗っていきます。ナイフも使うとより筆では出せない抽象性が加わります。かなりゴツゴツした下地をジェッソで作ってから暖色系を5色程度、それとブラックで塗りました。あまり不用意に触ると混濁するのでほどほどのところで終わりにして乾かしました。厚塗りした部分もあるのでしばらく放置しておきますが割れるリスクがあるので人様に行く前提の絵でしたら真似しないようにしてください。
こういう下地で絵を描くことに抵抗ありますか。いつもきれいな画面からスタートしないと気持ち悪いですか。ずっと言い続けていることですが絵は自由なので固定観念、根拠のないしてはいけないルール、人目など全て捨ててしまいましょう。
描きにくそうな下塗りに見えますが意外ときっかけが掴みやすかったりもします。例えば「この赤の塗り終わりがひじに来るかな」などまっさらキャンバスでは見つからないチェックポイントがあります。あとなんと言ってもこの模様を見ただけで心が動き始める感覚があります。
下地がこういう状態なので中間トーンなど気にしている場合じゃありません。とりあえず様子見で描きやすそうなところからスタートしました。人体描くときどこから描きますか。僕は胸か骨盤辺りから描くことが多いです。頭から派も割と多いですがケースバイケースで使い分けています。
わかりにくいですがオクルージョンシャドウ(黒に近い濃いところ)を髪の左側、脇、骨盤左側などに入れて起点を作りました。形は大きなところで合わせてその間をやりくりしてあげるといいですね。
前のセクションでも明部の浮き出しは始めています。シャドウだけだと埋もれてよくわからないので早めに明部にも着手しました。さらに形をはっきり出すために背景もブルーがかった白で明るくしていきます。上半身のプロポーションが整ってきたので頭部を描きました。この段階では細かい描写はせずに人体に対しての頭部の大きさに集中します。
皆さんキャンバススクレイパーは使いますか。厚塗りした絵具が邪魔になったときにキャンバスを傷付けずに削り取れる道具です。この絵も邪魔なところは少し削ってから塗っています。そこまで厚塗りすることもないかもしれませんが例えば古いキャンバスをつぶして新しい絵を描くときにも古い絵具の除去に使えます。もちろんパレットに固まった絵具にもオッケーです。
とりあえず人体を全て出さないと落ち着かないので足先のゴール目指して塗り続けます。このプロセスでは人体の細かい立体感は意識していません。明暗だけで描いていきますがベース塗りといったところです。
○ベースの塗りと本塗り
この二つを分けて塗っていますか。アラプリマでも一般的な描き方ですと油彩は2回塗る感覚だと制作がスムーズです。ベースを塗ってそのあと本塗りでボリュームや色味を追加していくイメージです。ある程度画用液で溶いて塗るのがベース塗りですがこの塗り方で仕上げまで描く人が多いのです。本塗りでは画用液をほとんど使わないか、必要最小限で絵具をしっかり乗せましょう。どうしてもギアチェンジできない人はベース塗りは筆で、本塗りはナイフで色を作るようにするといいかもしれません。
僕はNaturalnessという言葉を常に意識しています。崇拝する御爺様から頂いた言葉ですがとても気に入っています。
Naturalness(ナトゥラルネス)=自然らしさ、飾り気のないこと
人物画では一生懸命顔を描きたがる人が多いですがこの絵のようにシャドウ内にあるときはそんなにディテールは見えません。つまり手数をかけて描くところではないですね。描きたいからとかではなくあくまで見えたまま力を抜いてそれを受け入れる。よく見えないのだから仕方がない。デッサンは基礎習得と思われますがこの精神に気付けて、磨かれてそれが当然のさまになるまで繰り返すことに本当の意味があると考えています。
人体を塗り終わりましたのでまずはしっかり座らせてあげるため台から塗っていきます。
結局下塗りをつぶすように背景や床を作っていきますが塗り残しでその色は垣間見れます。ただのベタ塗りでも色の心理的効果は感じますが揺れがありません。こうした背景のように色が点在しているような感じなら色のバイブレーションが起こります。塗り残しがダメという感覚ありませんか。ちょっとの塗り残しもなんか気持ち悪い。その完璧主義が絵の良さ味を消しているかもしれません。その塗り残しが絵にプラスに働くのなら取っておいてもいいですよね。
拡大して見ていただくとわかりますが輪郭がかなりルーズになっています。ゴツゴツの下地にしたのも意図的に自分のきれいに描きすぎる癖を直したいからです。ルーズな輪郭でも大丈夫なことを自分に成功体験として教えてあげる。描きたい絵のイメージがあるので自分で調整してその目標に向かってこういったことをコツコツとやっています。
完成です。背景や床などの処理が終わったら人物に戻って仕上げました。人物を塗る終えた時点ではデッドレイヤー気味(デッドレイヤー=シャドウ内にホワイトが入りすぎてトーンと色がくすんでしまうこと)だったのでまずはそこから立て直します。髪の明部、肌のハイライトや明るい部分(脇腹や右ひざ周辺)をナイフでインパスト(盛り上げた塗り)で塗りました。肌色に変化を与えるために青緑を少し入れています。話変わりますがオレンジの補色は青です。この画面を見てそれを感じた人もいるかもしれません。青緑はオレンジの分裂補色です。色相環(色相サークル)で見ると補色の青のお隣さんになります。色を綺麗に見せるために補色では決まりすぎるとき(あるいはもっと玄人感を出したいときは^^)は色を一つズラして分裂補色がいいかもしれませんね。あと赤みの強いところにピンクも置きました。この絵の解説は以上です。
今回の記事でこのブログは最後になります。今までご愛読ありがとうございました。教室のオープンから5年間続けてきましたが皆さまのお役に少しでも立てたなら嬉しく思います。まだまだ山ほどご提供したい情報はありますがブログの継続が困難になってしまいました。CHULAPO会員の皆さまにはテキスト化して今後も情報提供していきますのでご安心ください。ブログはけっこうな量になりましたが何回も読み返すことで理解が深まると思います。上達した今だから理解できる内容もあるので暇なときに過去ページも見てくださいね。ブログを描かなくても僕は変わらず精進していきます。もうルーティンですね。皆様も楽しくたくさん描いてアートフルな毎日をお過ごしください。絵のある日常はリッチですね。では。