風景画の遠近法について

ひどい暑さですね。夏が好きな主宰者ですが今年はさすがにげんなりしてしまいます。皆さん熱中症には充分に気を付けてくださいね。

どうやらこのブログ読者にはKenitoファンがいるらしく(?)、更新しないとおしりペンペンされてしまいそうです。ブログの記事が面白いと言ってくださる方もけっこういて有難いことです。僕は文系上がりですが中学生の頃、国語の先生が生徒に毎回クラスの終わりに一言メモを書くことを習慣にしていました。良い文は壁に貼ってもらえるのですが僕は短い詩みたいなものを書いていつも先生は喜んで貼ってくれた思い出があります。

最近雲隠れして風景画の遠近について研究していました。日本人の描く風景画には遠近感をあまり感じないのはなぜだろうと考えました。一つには体系的な風景画の教育がされる機会が少ないということ。例えば僕が通ったマドリード大学の美術部では風景画の授業があってそれ専門のレクチャーがされていました。1年ずっと風景画だけですからかなりの知識が得られそうです。あともう一つ。日本人の生活様式を疑いました。海の近くに住んでいれば海景は見えますが都心部の人が密集しているエリアでは頻繁に広大な野原を見る機会があまりありません。ビルや山があるので遠くまで見渡せる環境が身近にないのかなと。自分から見に行けばそういった場所もありますが日常的には海外に比べて地平線まで見渡せる状況は少ないので観察ということに関しては場数が少なくなりそうです。

風景画の遠近についての簡単なカードを作りましたので少しお見せします。

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紙は四角いですが1本の水平線を引くことで動き出します。風景を見ると建物などが目に入りますがその前の大きな基盤として天地を分けてあげるといいでしょう。もっと具体的に言うと空と地面を分ける感覚です。ちなみにサンプルでは縦幅の真ん中辺りに水平線を引いていますが構図としてはつまらなくなります。絵は何でも真ん中とか均等になると安定感は出ますが面白みがなくなることを覚えておきましょう。皆さんは真っ白い紙の前で緊張してしまいますか。違いますね。そこは自由の扉。あなただけの世界に入り込んでください。

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風景は遠景、中景、近景を分ける意識があると遠近感を表現するのが上手になります。先ほどの水平線を基準に画面の上下にいくほど近くに寄ってきます。右のイラストでは近くの雲と道が大きく、遠くの雲と道が小さくなっています。分厚い奥行きのある紙に描くようなイメージですね。風景画は距離があるほど難しくなりますがこの3つの遠景、中景、近景を大袈裟なぐらい意識的に分けて描くといいと思います。

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紙は四角いです。当たり前すぎて気付けないところですが垂直と水平に囲ませた枠でもあるわけです。左はよく使われるL字構図ですが画面と並行なので動きがありません。右のように水平垂直との対比、つまり斜めのラインが入ることで動きとか流れが出てきます。このサンプルでは画面が3つに分かれていますが絵を描く前に構図について考えることはとても大切です。それはまるで図形の組み合わせで遊ぶようなもの。形へのこだわりが強い指導をしていますがその形へのセンスがこんなところにまで影響してくるのですね。絵は構図で良くも悪くもなりますがこのようなことを理解すれば形を適当に見ることもなくなるでしょう。簡単に3つに分かれたサンプルですが絵を描く上で奇数は一つカギになります。偶数だと対になってしまうので動きにくい。静物のモチーフも3つ、5つなど奇数だと組みやすいです。

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左は一番最初のサンプルの水平線を増やしたものですがこの数本の線で遠近感が強まりました。たった数本の線で絵は変化するということですね。右は隆起のある丘のような感じですが1本の水平線よりは遠くに感じます。ある意味遠くは物が密集したエリアとも言えそうです。遠くの物なので「はっきりは描けないが細かいトーンが混在している」ような状態です。
ここまで画面構成の話でしたが全て横広の紙のサンプルです。人間の目は横に広く見える。横向きの紙の方がしっくりくるのはこのためですね。ただ構図に関しては横向きが全てではないのであえて縦に使うのももちろんありです。余談ですがレッスン中、巡回していると僕がどこにいるか必死で横目で確認しようとする生徒さんがいますね。そんなに僕のことを怖がらないでください^^

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遠近のお話なので透視図法は外せないでしょう。サンプルは消失点が画面右にある1点透視図法ですね。風景に人物を描くときにも使える優れものです。箱が描ければサンプルの内容は理解できるはずです。たかが箱のデッサンでもここまで話が派生してきますのでデッサンの基礎は大切です。基礎をしっかり身に付ければ難しいこともステップアップがスムーズになります。

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上のサンプルの応用になりますがコントラストと描き込みの強さについてです。遠くにいくほど明暗差が弱くなる。また遠くの物ほど描き込みが弱くなる。明暗差が弱くなるのは空気遠近法の仕業ですね。細かい説明は省きますが要は遠くにいくほどトーンが上がる仕組みです。描き込みが弱くなるのは当然。遠くの物は近くの物ほどよく見えませんから。写真ばかりで描いていると気付きにくいと思うので散歩しながら観察してみてください。あと近い物ほどしっかり描けという指導がありますがかなりあやしいですね。人間の目は1点しか見れませんので焦点が中景にあったら近景はぼやけて見えます。なので近いところの方が描き込みが弱くなることもあり得るでしょう。

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こちらもよく見ますね。オーバーラップです。簡単に言うと重なり。重なった物を描くことで前後関係が明確になります。色々と遠近感の出し方について書いていますが実際の風景で登場しないものもあります。このオーバーラップも然り。オーバーラップするところがない?!なんてことも。無理に遠近法を使う必要もありませんがオーバーラップしているところがあったらニヤケながらここぞとばかりに使ってあげてください。一つ前のサンプルにも言えることですが遠くの物の輪郭線を緩めにすると「遠く感」が出ます。遠くの物の輪郭がキリっと(ハードエッジ)にすると突進してくるので気を付けましょう。輪郭線の処理も大切な要素です。アクリルガッシュや不透明水彩でしっかり塗る描き方の人は輪郭のぼかしがやりにくいので難しいところですね。

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これを遠近ととらえるかわかりませんが距離感は感じるかもしれません。大きさの対比ですね。ただ木だけ描いても比較対象がないとその大きさはわかりませんが一般的にイメージする家の大きさと並置することで木の大きさの察しがつきます。スマホで友達と写真を撮るとき、小顔に見せるために後ろに下がる人いますよね。友達は大切にしましょう^^

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大きさの話が出ましたのでもう一つ参考になることを。風景画には大、中、小と大きさの異なる物を織り交ぜるといいです。先ほど書きました奇数の原理にも通じるところでもあります。写実的な絵を除いてある程度の省略はなされますが小さい物を省いてしまうケースが多いです。小さい物ってけっこう重要な役割をするんですよね。遠くに見える小さな家とか。その小さな家から絵にストーリーが生まれたりします。

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最後に木の描き方について少し。屋外の光源は御日様の一つだけなのでこれを利用しない手はないでしょう。色は心理的効果、リアルさはやはり明暗をしっかりとらえましょう。落ちているカゲも木を「地面に座らせる」ためにとても重要です。

ざっと遠近感を出すコツを列挙しました。ただなんとな~く風景を描くのではなくこういったことを取り入れながら描くとまた違った絵になりますよ。

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